03.04. [概説]1837年憲法

2003.12.23

03.04. [概説]1837年憲法

(1)制定の経緯

カディス憲法復活後、1836年10月に行われた国会選挙では、自由主義進歩派が過半数議席を占め、この国会が憲法制定議会として新憲法の起草に着手することになった。1837年6月18日に公布された新しい憲法は、1845年まで効力を維持した。

(2)特色

①一般的性格
1837年憲法の制定は、形式上は、カディス憲法の改正として行われた(前文)が、事実上、新憲法の制定といえるものであった。憲法条項を必要最小限度に絞り、より実践的な内容をもたせるよう心がけられた結果、384か条もあったカディス憲法とは対照的に、全77か条という適度な分量の法典に仕上がった。また、進歩派主導で起草された憲法ではあるが、同時に、国会と国王による立法権の共有、二院制国会、国王大権などを採用し、穏健派の利害にも大きな譲歩ないし考慮を示している。進歩派と穏健派との間の“協約”ないし“妥協”の産物と評されるゆえんである。
立憲君主制のモデルとしては、フランス1830年憲章(シャルト)やベルギー1831年憲法の影響を強く受けているといわれる。また、“超”硬性というべきカディス憲法とは対照的に、1837年憲法は憲法改正の手続規定をもたない軟性憲法である。

②統治機構
[立法権] 「国会(コルテス)は、権限において対等な二つの共同立法機関、すなわち上院及び下院によって構成される」(13条)。この憲法によって「上院」(セナード)・「下院」(コングレソ・デ・ロス・ディプタードス)という用語が確定し、現行を含むその後の諸憲法でも用いられることになった。両院とも民選議院であるが、下院が国民の直接選挙によっている(22条)のに対して、上院は間接選挙である(15条)。進歩主義と穏健主義の折衷といえる。なお、37条は下院の優越を定めている。「租税及び公債に関する法律案は、先にこれを下院に提出しなければならない。上院が修正を行い、その後、下院がこれを承認しないときは、下院議員が最終的に可決した法律案を国王の裁可に付するものとする」。
国会の諸権限のうち、主なものは、国王とともに法律案提出権を行使すること(36条)、議院規則を制定すること(29条)、大臣の責任を追及すること(40条4号)等である。
[執行権] カディス憲法が国王権力を制限する傾向にあったのとは対照的に、王国憲章ほどではないにしても、国会に互角に対峙できるだけの権能を国王に付与している。
国王の権限は、47条に9項目にわたり列挙されている。すなわち、政令、規則及び訓令を発する権限、宣戦・講和の権限、軍隊の指揮権、公務員の任命権などである。
[司法権] 第10編「司法権」には、民事及び刑事の裁判において法律を適用する権限が裁判所及び裁判官に専属する(63条)ことや、裁判官の身分保障(66条)などが定められている。
[諸権力間の関係] 国会も国王もともに法律案の提出権を有する(36条)。国王は法律を裁可及び公布する(46条)が、「両院の一つが法律案を否決し、又は国王が裁可を拒否したときは、同一立法期において、同一内容の法律案を再び提出することができない」(39条)ことから、国王による不裁可は絶対的な拒否権と解される。国王は毎年国会を召集しなければならず(26条)、国王がその年の12月1日までに国会を召集しないときは、この日を以て国会は自動的に集会する(27条)。また、国会を解散するときは、国王は3か月以内に次の国会を召集しなければならない(26条)。

③権利
1837年憲法は、権利宣言(第1編「スペイン人」2〜11条)を明白に含む初めての憲法である。とりわけ注目されるのは、「国民は、スペイン人の表明するカトリック教の信仰及び司祭を維持する義務を負う」とする11条である。この趣旨は国教制ではなく、国民(ナシオン)の義務として、カトリック信仰の尊重を約束したものと解され、宗教的寛容の萌芽として一定の意義を有している。

(3)運用

摂政マリア・クリスティーナ治下の政治は非常に不安定で、憲法が構想する議会政治にはほど遠かった。1840年には、国会の多数派を占めた穏健派が、地方の進歩派勢力を牽制する目的で、県都の市町村長の任命権を内閣に与える法律を可決したため、同年9月1日、これに反撥する進歩派がマドリードで蜂起した。10月12日、進歩派に与したエスパルテーロ将軍は、マリア・クリスティーナに退位を迫って自ら摂政となり、1843年7月までの3年間、ほぼ絶対的な権力を行使した。

(4)意義

1830年代には、二つの政治勢力がスペイン政治の表舞台で主役を演じる構図が明らかになった。自由主義穏健派(モデラードス)と自由主義進歩派(プログレシスタス)である。
穏健派は、国民主権原理に懐疑的で、王権の強化を指向する。彼らが憲法に期待するものは、強力な国王権力、制限選挙制、二院制国会、国教制などである。一方、進歩派は、国民主権原理を擁護し、王権の制限を指向する。彼らが憲法に期待するものは、国王権力の制限、議会権力の強化、普通選挙制、一院制国会、政教分離、権利宣言などである。
どちらかといえば進歩主義的と評価されるこの1837年憲法を皮切りに、1876年に復古王政の憲法ができるまでの間、どちらの党派が政権を掌握し憲法を制定したかによって、スペイン政治は穏健主義と進歩主義の間を大きく揺れ動くことになるのである。

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